0.999...=1を中学生にわかるように厳密に証明した。

この記事を読んで、中学生にもわかる証明を書きたくなった。でもεδ論法とか実数の公理とかは使いたくない。そういうのを使わずにできるだけ厳密にやってみたいと思った。

以下、対話の続きっぽく書いた。

0.999...=1の証明

先生「あれから先生考えてみました。中学生くんの納得いくような説明を思いついたので聞いてもらえますか?」

中学生「しょうがにゃいなあ〜。あ、間違えました。いいですよ、どうぞ」

先生「中学生くんが理解したいのは、

0.999... = 1

になるのかならないのか、なるとしたらなぜなのかですね?」

生徒「ですです」

先生「ところで、

0.999...

って、いったいですか?」

生徒「何って言われても……。数じゃないですか。0.のあとに9が無限に続く数。」

先生「そうですね。でもよく考えたら不思議ですよね。無限に続く小数ってよくわからないです」

生徒「確かに。あっ、わかった! ほんとはそんな数はないんですね!」

先生「無限に続く小数は存在しないっていう考え方もできるかもしれません。でもそうすると話が終わってしまうので、とりあえずはこういう数が存在するってことにしましょう」

生徒「えー……なんかズルくないですか?」

先生「まあズルいですけど。でも、そうですね。存在するかどうかはわからないけど、もし存在するとしたらどうなるかという話をしたいです。こういうのを『仮定』といいます」

生徒「ふうん。わかりました。では0.999...が存在すると仮定して議論を進めましょう」

先生「はい。では最初の質問に戻ります。0.999...は何ですか?」

生徒「ええと。そういう数です」

先生「よろしい。0.999...は数ですね。」

生徒「なんか当たり前のことしか言ってないような……」

先生「当たり前のことを確認するのはとても大切です」

生徒「お説教はいいので次に行きましょう」

先生「では次です。0.999...という数はそのままではよくわからないので、この数の性質を考えることにします。あと、偏見にとらわれないために、今から0.999...を文字αとおくことにします。さて質問。

『数αはどんな性質をもつか?』

どうですか、生徒くん」

生徒「0.999...がどんな数かってことですよね。そうだな。0.999...は限りなく1に近い数です。でも1より大きくない。すごく1に近くて1を超えない」

先生「αに置き換えて言うと?」

生徒「数αは限りなく1に近い。でも1より大きくない」

先生「よろしい。ではその性質を数式で表すことにします。

[数 α の性質]
① 任意の数 x に対して、
x < 1 ならば x < α
② α ≦ 1

性質①は、αが1に限りなく近いことを表しています。1よりも小さい数のうち、どんなに1に近い数を持ってきても、αのほうが1に近いということです。そして性質②は、αが1を超えないことを表しています。よろしいですか?」

生徒「ちょっと待ってください。いま理解しますから。……よろしいです」

先生「よろしい。ところで、性質①の対偶を考えると、

[性質①の対偶]
任意の数 x に対して
x > α ならば x > 1

が成り立ちます。xがαよりほんの少しでも大きくなったら、xは1を超えてしまうんですね」

生徒「つまりどういうことだってばよ……」

先生「つまり、『αと1の間にある数』は存在しないということです」

生徒「ええと、証明します。αと1の間にある数yがもしも存在するとしたら、数yはαよりも大きい。すると性質①よりyは1より大きいことになる。しかしyはαと1の間にあるはずだから、yは1よりも小さい。これは矛盾!よって存在しないというわけですね」

先生「背理法おめでとう。そういうことです。いったんまとめておきましょう」

[α の性質①’]
α < z < 1 となる数 z は存在しない。

生徒「オッケーです。αと1の間にある数は存在しない。で、これがどうかしたんですか?」

先生「このことから、α=1がただちに言えます」

生徒「えええええぇぇぇ(椅子からずり落ちる)」

先生「でもその前に、実数の稠密性(ちゅうみつせい)について説明しなければなりません」

生徒「(無言で立ち上がったものの足をガクガクふるわせている)」

先生「単純な話です。数には次のような性質が成り立ちます。

[稠密性]
任意の数 x, y に対して
x < y ならば、x < z < y となるような数 z が存在する。

つまり、異なる2つの数にはその間にある数が必ず存在するということです。これを稠密性といいます」

生徒「なんだそういうことですか。わかりますよ」

先生「では証明してください」

生徒「わかりました。稠密性を証明するには、数zを具体的に作ります。x<yであるとして、

z = (x + y) / 2

とおけば、x<z<yが成り立ちます。証明終わりっ」

先生「よろしい。では問題です。では稠密性の命題の対偶を言ってみてください」

生徒「はい。ええと、

[稠密性の対偶]
任意の数 x, y に対して
x < z < y となるような数 z が存在しないならば、x ≧ y

ですね」

先生「ではαに話を戻しましょう。αの性質と稠密性を合わせると何がわかりますか?」

生徒「アッ。アッ。そういうことか!

[α の性質①’]
α < z < 1 となる数 z は存在しない。
[稠密性の対偶]
任意の数 x, y に対して
x < z < y となるような数 z が存在しないならば、x ≧ y

を合わせると、

α≧1が言えます!

そしてαの性質②α≦1が成り立っている!

つまり、

α ≧ 1 かつ α ≦ 1 より、α = 1
すなわち、0.999... = 1

というわけですね!

0.999...=1がいえました! 」

先生「(拍手)」

世界「(拍手)」

中学生「(拍手)」

この記事で省略したこと

実数が体であることも、実数が全順序集合であることも暗黙の了解として使いました。もちろん実数の定義もしていません。ご了承ください。